西原は、1874年、宮古諸島の北に位置する池間島と佐良浜からの移住によって誕生した集落である。池間から分村する際、池間最大の聖地とされるウパルズの神々も引き継ぎ、ウパルズウタキとして祀っている。また、ユークイやミャークヅツといった村落祭祀も同様に引き継いだ。西原では、ウパルズウタキを中心として、10ヵ所のウタキと公民館などで主な村落祭祀を行う。
西原にはナナムイという祭祀集団があり、西原在住または西原出身の男女は一定年齢になると、ナナムイに加入することが原則として義務づけられている。近年では、ナナムイを「学園」と捉え、ナナムイへの加入を「入学」、退役を「卒業」、新しい加入者を「新入生」、退役する者を「卒業生」ということもある。女性は数え46歳で入学し、数え55歳で卒業する。卒業までの10年間、ナナムイヌンマとして村落祭祀を担う。女性神役の中からさらに、最高指導者としてのウーンマ、本来神がかりを専門とするアーグスンマ、供物の管理をするナカバイ、ウーンマの補佐役であるウーンマヌトゥム、アーグスンマの補佐役であるアーグスンマヌトゥム、という名称の女性神役を神クジという特別な籤引きで選出する。この5名はハナヌンマとも称される。ハナヌンマの中でも、ナカバイ、アーグスンマヌトゥム、ウーンマヌトゥムの3名は新入生から毎年選出されるため、毎年最低3名以上の入学が必要である。
これに対し、男性は数え50歳になる年に入学し、数え56歳で卒業する。ナナムイに入学した男性を通常ニガイウヤと呼ぶ。組織は年齢階梯的に構成されている。男性の任期は7年であり、年6回のみ村落祭祀に参加する。女性が中心となる儀礼では、ウタキで酒を飲み交わすことが主な役目であるものの、男性が中心となって行う儀礼もある。また、ヒューイトリャとして、村落祭祀の日取りを決定する女性の存在がある。
西原の村落祭祀は、通常「カンニガイ」として、ナナムイヌンマを中心とし、年間45回以上執り行われる。ナナムイの村落祭祀は、粟や芋、稲の豊作祈願や収穫祭、虫払い儀礼などの農耕儀礼、生徒の安全や健康に関する学校での儀礼、厄払い儀礼など様々な種類がある。女性神役の主な役割は、ウタキの神々に酒や米、餅、蛸などの供物を捧げ、神歌と呼ばれる神聖な歌を歌い、祈りが込められた線香に火をつけ、村人の健康や幸福を10年にわたり祈願することである。
西原で生まれ育った者は、まずマスムイを通して、ウタキの神々に登録されることとなる。次に、ナーヌス(神名)によって自らの守護神を選択する。家には、ヒヌカンや床の神といった存在があり、さらにカンタナを通した先祖による守護もある。また、守護神としてのマウの神だけでなく、家から一歩外に出れば、ウタキの神々の存在もある。このように、西原の人々は幾重にも神々との関わりを持ち、信仰生活を営んでいるといえる。
(文責:平井 芽阿里)